【マリオ64 RTA】THIパックンでついに『Pipe Clip』が使われるようになった件

トピックちびでかアイランド,ワンスターRTA,世界記録,歴史

マリオ64の個別スターのタイムを競う『ワンスターRTA』では、月日が経つごとにTASルート・アプローチを採用するスターが増えてきている。

今回の話題である『ちびでかアイランド きょだいパックンフラワー』(THIパックン)も、TAS専用技だった『Pipe Clip』が採用され、世界記録が更新されたのだが……。

トピックとして語らなければならないほど、悲願の世界記録更新だったのである。

どうして悲願なのか――今回はこの理由を話すとともに、『Pipe Clip』を実際に見てみよう。

  • 旧世界記録: 23秒42 by 7名のプレイヤー
  • 新世界記録: 23秒39 by GiBoss氏, tjk113氏

※どちらもリアルタイムの記録。

つい最近までは世界記録タイが7名もいた!

THIパックンは「世界記録を狙いやすい」と言われるスターのひとつだった。その理由は、このスターは前半パート・後半パートどちらも比較的簡単だからである。

まず、土管までの前半パートだが、今までは各入力を最速で出すだけで最速タイムを出すことができたので、粘れば出せる程度のものだった。

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続いて土管をくぐって以降の後半パート。

ここは、パックンは速く倒せばその分速く出現するわけではなく、出現までに少し待つ必要がある。よって、それなりの動きができさえすれば、最速タイムを出すことができる。

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以上の話からなんとなく分かったと思うが、基礎操作力のあるプレイヤーなら簡単にこのスターの世界記録を出すことできたのである。

実際、ワンスターの世界記録の歩みを記した表を見ると、2020年6月手前までで『23秒42』の世界記録タイが7名もいたことが分かる。

ワンスターの世界記録がタイ(同タイム)で並ぶことはあまり無いので、この事実だけでも『このスターが簡単だったこと』が理解できるのではないだろうか。

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世界記録タイを破るカギは『Pipe Clip』

『世界記録タイが7名もいる』――こんな状況は今までになかったため、タイ記録が増えてきたあたりから、一部のワンスタープレイヤーは、

  • 「タイ記録が続くとこのスターの世界記録がしょぼく見える」とか、
  • 「このタイ記録を抜いたら結構すごいのでは」

などの感想を抱くようになってくる。

そして、2019年後半には、70枚TAS120枚TASの知見から、「パンチキャンセル、もしくはPipe Clipを使えば速くなるのでは」という話題が何度か出てくるようになり……。

2020年5月頃、実際に『人間が可能な更新ポイントの調査・試行』が行われた結果、『Pipe Clip』を人間で実現するやり方に目途が付き、ついに世界記録タイを破るに至ったのである。

だからこそ、この背景を知っている人からすると、悲願の更新なのだ!

『Pipe Clip』とは土管でヌメる技

先ほどから何度も出てきている『Pipe Clip』。これがどういう技なのかを流れで説明しよう。

(画像は冒頭の動画から)

(1) 土管前に来たら、Zボタンを押しっぱなしにしてジャンプを出す。(『幅跳び後Zホールドジャンプ』というテクニック)

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(2) 土管の右端をめがけてジャンプダイブを出す。(この時、右入力が強いと土管にぶつかってしまう。)

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(3) うまくいくと土管でヌメることができ、タイム短縮になる。

※普通はこの高さのジャンプダイブだと土管に引っかかってしまうのだが、ヌメることで引っかからずに入ることができ、タイム短縮につながる。

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「Pipe Clipを決めるには、ジャンプダイブで厳密にマリオの角度を作る必要がある」と誤解されがちだが、実はそんなことはなく、角度は大まかでも成功する。

最も大事なのは『右端を狙うこと』であり、そこさえうまくできれば誰でもできると思うので、興味を持った方はチャレンジしてみてほしい。

実機(N64)におけるこのスターの難しさ

先で紹介した『Pipe Clip』は、見た目の通り結構難しく、このスターの難しいポイントがひとつ増えたと言っても過言ではない。

ただ、実機(N64)におけるこのスターの難しさは、この他にもう1点あるのだ。

それは――『ステージ開始時の処理落ち回避』である。

このステージは、最速フレームでC右かC左を押さないと完全に処理落ちを回避することができないため、最初から猶予1フレームの入力を要求される。

【追記】日本語振動版の場合、C左だともう数フレーム猶予があるかもしれない。ただ、カメラの関係でC右を使うのが一般的なので、それは無視して良いと思う。

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多少マリオ64に詳しい人だと「視点先行入力を使ったら簡単なのでは?」と思うかもしれないが、視点先行入力は最速フレームの次のフレームでボタンが反映されるため、完全に処理落ちを回避することができないのだ。

つまり、実機でこのスターの世界記録を狙う場合、最初にこの処理落ち回避を粘り、その上で『Pipe Clip』を決める必要があるので、以前よりも2ランクぐらいは難しくなってしまったのである。

あとどれぐらい更新できる?

『Pipe Clip』を完璧に決めた場合、TASと同じタイムを出すことができるので、TASが更新されない限りは完璧な世界記録となる。

具体的なタイムで言うとゲーム内タイム(IGT)で『23秒23』。このタイムは、今までの理論値(23秒30)よりも2フレーム速いタイムだ。

で、現状、どこまで出ているのかというと――。

IGTでは、すでに4名のプレイヤーが『23秒23』を出しているのだが、

リアルタイム(処理落ち込)では、理論値(23秒35)よりも1フレーム遅い『23秒39』が世界記録となっている。(冒頭に貼った動画)

やはり、Pipe Clipだけでなく、処理落ち回避も完璧に決めないといけないというのがネックになっているのかもしれない。

むすび

現在、実機でチャレンジしている方が何名かいるようなので、リアルタイムの世界記録が理論値(23秒35)になる日も近いと思う。

当サイトでは、ワンスターの世界記録が更新された際、その動画をトップページにリスト化しているので、もしこのスターを見かけたらぜひ視聴してみてほしい。

今回は前半パートの近年の動向を話したが、実は後半パートの歴史も結構面白いものになっている。またどこかの機会で、その話をしようと思っている。

【追記】23秒35が出たようだ。