【マリオ64 RTA】2024年まとめ
覚書の意味も込めて、2024年にマリオ64RTAコミュニティで起こった主なトピックを本記事にまとめる。
先に総評しておくと、2024年でホットだったトピックを3つ挙げるとするならば
『Suigi氏が人類初のメインカテゴリ全冠を達成したこと』
『pannen氏による見えない壁の解説動画が様々なコミュニティでも反響を呼んだこと』
『やみにとけるどうくつ 看板抜けが実現されRTA更新への夢がさらに広がったこと』
だろうか。
しかしながら他にも面白いトピックは数多あるので、以降で紹介していく。
【世界記録面】Suigi劇場の後半戦の年だった
2023年はSuigi氏が0枚RTA・1枚RTA・16枚RTAの世界記録を更新&維持し、マリオ64コミュニティのみならず近隣のコミュニティまでも騒がせた。
そのSuigi氏の劇場ともいえる快進撃は2024年も止まることを知らず…。2024年11月17日に氏は人類初のメインカテゴリ全冠を達成した。
そのことから、2023年をSuigi劇場の前半戦とするならば、2024年はSuigi劇場の後半戦の年だったといえるだろう。
年始と年末の世界記録は以下の表の通りとなっている。(タイムはspeedrun.comより)
カテゴリ | 01/01時点 | 12/31時点 |
---|---|---|
0枚RTA | 6:16.60 by Suigi氏 | 更新無し |
1枚RTA | 6:57.58 by Suigi氏 | 更新無し |
16枚RTA | 14:35 by Suigi氏 | 更新無し |
70枚RTA | 46:28 by いこり氏 | 46:26 by Suigi氏 |
120枚RTA | 1:36:48 by 花梨氏 | 1:35:28 by Suigi氏 |
2024年で最も世界記録争いがあったのは120枚RTAなので、当カテゴリを取り上げる。
2023年は花梨氏が10月21日に人類初の1:37切りを達成して終わりを迎えた。この時のタイムは1:36:48。
しかし、その記録は2024年1月にWeegee氏によって1:36:21に塗り替えられる。
1:36:21が達成されてから夏までの間、「最上位勢なら1:36前半であれば全然出せる。1:36切りの戦いが熱くなりそうだ」という感覚だった。
しかし、その感覚とは裏腹に、この1:36:21が抜けそうで抜けない記録として君臨していたのが面白かった点だろう。
1:36:21達成後はどうだったのかというと、花梨氏が高頻度で記録狙いを継続。氏の特徴である非常に安定感のあるプレイにより世界記録ペースを何度も出していた。
そんな中で花梨氏は4月9日に1:36:29を達成、世界記録まであと8秒のところまでたどり着く。
その後も世界記録ペースが続き、多くの人が「花梨氏が1:36:21を抜くだろう」と注目していたが…。3階以降のパート、特にレインボークルーズがうまく通し切れずに悔しい日々が続いたのである。
これが2024年春頃に注目が集まったエピソードであり、そこから時が経ち7月6日、Weegee氏が1:36:02を叩き出し自身の世界記録を塗り替える結果となった。
Weegee氏が1:36:02を達成してからは、特に日本のマリオ64コミュニティで『人類初の1:36切り』に熱い注目が集まった。
というのも、1:36切りが現実的に達成可能なタイムであることや、花梨氏のほかに当時70枚RTA世界記録保持者だったいこり氏が120枚RTAに参戦・ぱるすぃ~氏も120枚RTAに一時的に参戦していたことから、「日本人が1:36切りを達成するのではないか」と囁かれていたからである。
この当時、最も熱かったのはいこり氏の自己ベスト更新祭りだろう。
いこり氏は2023年12月に70枚RTAの世界記録を更新。その後120枚RTAを再開し、6月10日にカーペットレス導入後初の自己ベスト更新を果たした。この時のタイムは1:37:52。
その後も8月末までの間で1:37:29→1:37:11→1:37:10→1:37:05と自己ベストを継続的に更新し、9月5日に自身初となる1:37切り『1:36:37』を達成。
この更新祭りから「いこり氏がこのまま1:36切りを達成するのではないか」と熱い注目が集まっていたのである。
このいこり氏の更新祭りも相まって、『人類初の1:36切り』が最も熱かったのは10月前半だ。
この時は花梨氏も記録を狙って通しており、10月2日にチックタックロックで落下死したものの1:36:25を出して自己ベストを更新。
一方いこり氏はというと、10月6日に1:36:36、10月15日に1:36:21を叩き出し、日本人最速記録を更新するところにまでたどり着いた。
こんな熱い状況だったこともあり、マリオ64コミュニティの人々は「この2人のどちらか、もしくはWeegee氏が人類初の1:36切りを達成するのではないか」と思っていたのだが、事件は起こる。
――10月26日。Suigi氏が人類初の1:36切りを達成したのである(タイムは1:35:33)。
「まさかSuigi氏が1:36切りを達成するとは」というような声が上がるほどの予想外の出来事だったこと、今回の達成により人類初のメインカテゴリ全冠まであと1つになったことから、マリオ64コミュニティだけでなく近隣のコミュニティまでも大騒ぎに。
誰もが驚きを隠せなかった理由は、Suigi氏の通しの頻度や自己ベストの更新速度にあるだろう。
そもそも氏は試行回数を重ねることで記録を狙うタイプではなく、きっちり個別スター練習・ワンステージRTA練習などをしたうえで少ない試行回数で記録を狙うタイプだといえる。
また、モチベーションなどの理由でマリオから離れることも度々あるため、常に練習しているわけでもないようだ。
以下は氏の自己ベスト更新履歴だが、部分部分で期間が空いていることからもSuigi氏のスタイルの一端が分かると思う。
更新日 | タイム |
---|---|
2023年12月18日 | 1:41:49 |
2024年05月25日 | 1:41:19 |
2024年06月20日 | 1:39:17 |
2024年06月25日 | 1:37:38 |
2024年07月06日 | 1:37:11 |
2024年10月22日 | 1:37:00 |
2024年10月26日 | 1:35:33 |
つまるところ、120枚RTAを長期間毎日のように通していたわけでは無かったため、世界記録を狙っている印象があまり無かったのだ(世界記録を出せるポテンシャルは非常に高いといわれていたものの)。
その上、70枚RTAは練習後すぐに世界記録に近いタイムを出していたため、「120枚RTAもすぐに早いタイムを出すのでは」と期待されていたが、そうはならずに1:40切りにも多少期間を要していた。
そのことから「あのSuigi氏でも120枚RTAを安定させるのは難しいのか」と思われていた節があり、それも相まって、まさか1:36台をスキップして1:35台を出すとは誰も思っていなかったのである。
だからこそ良い意味で予想を裏切られ、そして、人類初のメインカテゴリ全冠まであと1つになったことから、その後はSuigi氏に大きな注目が集まることとなる。
Suigi氏はその後も止まることを知らず11月3日。世界初の1:35:30切りとなる『1:35:28』を達成。
そしてその後すぐの11月8日~10日の間で開催されたオフライン大会『PACE Fall 2024 120枚RTAトーナメント』では、世界記録ペースでクッパ投げまで到着。
惜しくもクッパ投げを外してしまったが、オフラインの場で『1:35:41』という大会での歴代最高タイムを叩き出してさらに注目を集めた。
GREENSUIGI HAS:
GOTTEN THE FIRST LIVE 1:35:XX ✅
HAS NEVER SEEN A 1:36:XX ✅
TAKEN FIRST PLACE ✅
DONE IT AGAIN ✅WILL WE SEE THIS MAN SNIPE THE RECORD THIS WEEKEND ⁉️ pic.twitter.com/IpQLKwFFjR
— GSA 🎮 Speedrun Events (@GlobalSpeedrun) November 8, 2024
この短期間で1:35台を三度出したことで偶然噛み合ったわけではないことが証明されたわけだが、そもそもなぜSuigi氏は120枚RTAにおいてこんなに安定しているのだろうか。
多少脱線してしまうが、この秘密は『氏は120枚RTAではあまり難しいことをやっておらず、マリオの動きだけでタイム短縮している点』にあると考えている。
前者の『120枚RTAでは難しいことをあまりやっていない』の意味を説明しよう。
2017年4月、circumark氏らにより『120枚Ideal Run』と呼ばれるRTAの理想的な動きを示した参考動画が公開された。
この動画では、当時のレベルで「この辺が120枚RTAの落としどころだろう」というルートやアプローチを採用している。しかし、近年の120枚RTAではこの動画以上のものを採用する風潮が強く、高難易度化の方向に進んでいる。
ではSuigi氏の120枚RTAはどうなのかというと、この120枚Ideal Runをベースに、近年導入された120枚RTAの大幅短縮技と氏が16枚RTAや70枚RTAで培ってきたルート・アプローチを導入した形になっている。
つまるところ、Suigi氏の120枚RTAでは、2017年レベルのルート・アプローチに氏なりのアップデートを加えたもの≒難しいことをあまりやっていないのだ。
特に120枚RTA固有のスターは例外なく普通のルート・アプローチ選択をしており、「上位勢でも使わないような高難易度のルートやアプローチを導入したからこそ早いタイムが出ている」というわけではない。この点もコミュニティを驚かせた。
このルート選択の根幹にあるのは、氏のモットーである「Strats save seconds. Movement saves minutes.」という格言だろう。
意訳にはなるが、この格言は「技を導入しても数秒しか短縮できないが、動きをよくすれば数分短縮できる」という意味で、マリオの動き(操作力)が大事であることを大げさに述べた格言である。
マリオ64RTAでは、同じルートやアプローチを使うのでも、走者によって動きの最適化レベルが異なるため、短いスターだとコンマ数秒・長いスターだと1秒以上の差が生まれることが多い。
例えばあっちっち砂漠の『タマピラ』。Suigi氏は13.3秒で安定させているが、他の最上位勢だと13.4~13.後半あたりで落ち着くケースがほとんどだ。
つまり、このスターだけでもSuigi氏は他走者と比べ0.1秒以上速いことが分かる。
このような短縮が積もりに積もって、120枚RTAであれば最終的に1分以上の差に繋がる。これがこの格言の内容であり、氏が120枚RTAでこんなにも安定している秘密なのではないだろうか。
120枚RTAはSuigi氏の1:35:28を最後に更新は無く本日に至る。以上が2024年内に120枚RTAで起こった内容となる。
現在の最上位勢であれば、人類初の1:35切りも現実的な範疇となっているため、2025年は1:35切りを期待したい。
【記録面】カーペットレスにより更新が活発に
当セクションでは全体的な記録に関する話をする。特筆するべきは16枚RTA、70枚RTA、120枚RTAである。それぞれを見ていく。
世界を見渡すとマリオ64の走者はいまだにポツポツと増えており、最上位勢へ上り詰めることができるポテンシャルを持った走者も出てきている。
2024年はそれを感じられた年であり、その最たる例が16枚RTAだ。
16枚RTAは20分以内で完走できることもあり、練習ツールが発展した現在だと1年あれば最上位勢までたどり着くことができるカテゴリだといえる。
こんな16枚RTAで2024年はどのような変化があったのか。上位勢のタイムを見てみよう。
2024年の年始時点では世界初の15分切りであるアッキー氏の14:59がちょうど10位だった。
しかし、年末時点だと13位になっている。つまり、最上位勢のラインである『14分台』が3名も増えたことになる。
そのうえ、2023年に名を挙げていた新規走者がタイムを伸ばし、15分前半が増えたのも印象的だった。
総評すると、16枚RTAは停滞することなく14分台・15分前半が増え、「今後は14分台が当たり前の時代になるのかも」と感じられた1年だった。
70枚RTAに関しては、2024年は最上位勢の更新がほとんど見られなかったものの、それでも特筆するべきトピックが2つあった。
まず1つ目が、Suigi氏がメインカテゴリ全冠を達成するために70枚RTAに再着手し、見事46分26秒を達成し世界記録を塗り替えたことだろう。
ただしこの記録はまだ更新余地があるように感じられたため、今後やり続けたとしたら46分切りを見られる日が来るかもしれない。
もう1点は、Goldrush氏が日本人3人目の47分切りを達成したことである。
この記録は、日本マリオ64コミュニティにより開催された記録狙いイベント『Japan Summer Cup 2024』内で達成されたものだ。
氏は2023年夏に開催された『RTA in Japan Summer 2023』の70枚RTAレースに参加していた走者で、Japan Summer Cup 2024をきっかけに記録を伸ばし47分切りするに至った。
2025年は70枚RTAの世界記録狙いや47分切り狙いが活発になることを願いたい。
2023年9月にRTAで実行可能な『カーペットレス』が考案され、50秒ほど短縮できるようになったのは皆もご存じだと思う。
これにより2024年は記録更新者が多発。2024年の年始時点では1:38切りが9名だったのが、
年末時点だと15名となった。
また、上位20名を見ても更新が1年以内の走者がほとんどであり、2024年にどれだけ多くの走者が更新したのかの一端が分かるだろう。
これは間違いなくカーペットレスによる効果であり、2024年を象徴するトピックのひとつだったと思う。
また、このカーペットレスにも関連することだが、2024年の120枚RTAは特に2階以降が進化したと感じられる。
前提として、120枚RTAは2階カギ扉タッチまでのパートを前半・2階カギ扉以降のパートを後半としてタイムを見ることが多い。
世界記録がちょうど1:37台に差し掛かった2021年頃は、後半パートは通しで35:30切りを出せたら十分だとされていた。そして、その後の2022年頃は通しで34分台を出せたら速いといわれていた。
現在はというと、カーペットレス無しでいう34分台を出さないと最上位記録を狙うのは難しい状況になっている(カーペットレス有りだと33分台)。
つまるところ、2階からRTAのタイム基準がワンランク上がったわけだ。
年代 | 基準(カーペットレス無し) |
---|---|
2021年頃 | 35:30切りを出せたら十分 |
2022年頃 | 34分台を出せたら速い |
現在 | 最上位記録を狙うなら34分台は必須 |
この進化の要因は、数年前から主流となっている練習法『2階からRTA』にあると考えている。
序盤ステージは何度も走る一方で、2階以降は試行回数が明らかに少なくなる。その分練度が低くなってしまうので、2階からRTAを走ることでその点を補うという練習法となる。
近年は当たり前になった練習法ではあるが、それを数年間続けてきた走者が少しずつの積み重ねにより練度アップ。結果としてタイム基準がワンランク上がったのではないだろうか。
ちなみに、現在の2階からRTAの最速記録はSuigi氏の33:09となっている(下記動画)。上記のタイム基準からさらに30秒以上速いタイムなので、ここからもSuigi氏の異常さを読み取ることができる。
※2階カギ扉タッチ最速はSuigi氏の1:01:48。
【サブカテ面】カーペットレスがサブカテゴリにも影響
サブカテゴリにおいても、カーペットレスにより大幅なルート更新があり賑わった1年だった。その一部を当セクションで紹介する。
ノンストップ120枚RTAとは、スターを取った後もステージ内の探索を続けられるチートを用いて行う120枚RTAである。
メインカテゴリでは使わないルートやアプローチが多々あるため、走者としても視聴者としても楽しめるサブカテゴリだ。
2023年9月にRTAで実行可能な『カーペットレス』が考案された結果、レインボークルーズのルートが大幅更新。カーペットレス導入後のルートが下記動画となっている。
今までは赤ボム兵に話しかけた後にカーペットに乗っていたが、導入後からはカーペットをスキップしている点が大きい差分となる。
そして、このルートを導入して世界記録が更新されたのが2024年5月15日。更新者はDwhatever氏だ。
氏は2021年を最後にノンストップ120枚RTAの通しを行っていなかったが、カーペットレスが導入されたこともあって2024年に再着手。最新ルートを覚え直し、見事世界記録を更新するに至った。
走者数が少ないカテゴリなのでまだ更新余地がある状況だが、競争が激化した場合は1時間切りも夢ではないかもしれない。
オール[!]箱RTAとは、マリオ64にある全ての[!]箱を壊した後にラストクッパを撃破するRTAである。
メインカテゴリでは使わないルートやアプローチが多々あることもあって、ごく一部の走者たちがこよなく愛するカテゴリとなっている。
こちらもカーペットレスの影響でレインボークルーズのルートが大幅更新(下記動画の32分3秒から)。結果、2024年3月24日にAJLane氏により世界記録が更新された。
ここまでの話だけだと喜ばしいニュースに聞こえるかもしれないが、実は当カテゴリの愛好家たちからは落胆の声も上がっている。
というのも、2022年末に非常にトリッキーなレインボークルーズのルートが考案され、それを用いた世界記録更新に賞金がかけられていたからである。
具体的に考案されたルートは、当カテゴリ愛好家の1人であるfazerlazer氏が考案した下記動画のルート。
カーペット起動後に[!]箱を壊してワープし、ワープ先でカーペットに乗り直すルートで、カーペットの待ち時間をふんだんに利用する発想は当カテゴリしかないものだった。
HUGE NEW TIME SAVE
found by yours truly
saves 7s over old movement
$100 bounty for this trick done in a new WR pic.twitter.com/bIeiEYlSLb— CCG | fazerlazer80 (@fazerlazertv) December 23, 2022
しかしカーペットレスの考案によりこのルートを使わなくなったため、落胆の声が上がったわけだ。
とはいっても、2022年から止まっていた世界記録が更新されたのは喜ばしいことだったようで、とある愛好家は「オール[!]箱RTAの時代が来た」と歓喜していた。
2025年もオール[!]箱RTAの更新があることを期待したい。
100残機RTAとは、残機を100機集めてラストクッパを撃破するRTAである。
メインカテゴリでは使わないルートやアプローチが多々あったり、メインカテゴリを走るだけでは知りえない仕様を知れることもあって、ごく一部の走者たちに人気のあるカテゴリとなっている。
2024年は、夏に開催された『Japan Summer Cup 2024』によって当カテゴリの世界記録が二度更新された。
70枚RTAの時に話したが、『Japan Summer Cup 2024』とは日本マリオ64コミュニティにより開催された記録狙いイベントである。
このイベント内ではいくつかカテゴリが指定されたのだが、その中に『100残機RTA』があり5名の走者が取り組んだ。
2024年夏までの世界記録は2024年5月4日にAJLane氏が達成した『32:35』。
Japan Summer Cup 2024をきっかけに8月20日に花梨氏が31:20、8月31日にKANNO氏が30:42、と記録を塗り替える結果となった。
まだまだ開拓余地があり、走るのも見るのも面白いカテゴリなので、今後も走者が出てくることを期待したい。
2024年はSwitch版マリオ64にも少し変化があった。
一口にSwitch版といっても、『スーパーマリオ 3Dコレクション』に収録されているマリオ64(通称マリコレ版)と、『Nintendo Switch Online + 追加パック』に加入することでプレイできるマリオ64(通称NSO版)がある。
前者のマリコレ版に関しては、70枚RTA・120枚RTAともにKANNO氏によって世界記録が更新された(下記はマリコレ版70枚RTAの記録動画)。
一方、NSO版に関してもKANNO氏により70枚RTA・120枚RTAの世界記録が更新された。
KANNO氏は元々NSO版の16枚RTA・1枚RTA・0枚RTAの世界記録を持っていたため、今回の更新によりNSO版カテゴリを全冠するに至った。
世界記録に関してはこのような変化があったのだが、Switch版全体を見渡してみると走者数は去年とほとんど変わっておらず、上位記録の更新合戦があったわけでもなかった。
そのこともあって、色々変化があったというよりは、主にKANNO氏がSwitch版に積極的に取り組んでいたのが2024年の印象だ。
今後Switch版マリオ64の記録がどのように変化していくのかにも注目していきたい。
【ワンスター面】色々なチャレンジで盛り上がった年だった
ワンスターとは、個別スターを回収するまでのタイムを競うRTAである(詳細)。
2024年も熱いチャレンジがあり、スポット的に非常に盛り上がった。
せっかくなので、当セクションではワンスター関連で話題になったものを1月からの流れで紹介していく。
年始早々にコミュニティ内で盛り上がったのはGiBoss氏による当スターの40秒切りチャレンジだ。
これまではDrogie氏の40.32秒が世界記録だったが、40秒切りできることは既知だったこともあり、「いつか誰かがチャレンジするだろう」という状況が続いていた。
そしてチャレンジしたのがGiBoss氏となる。
GiBoss氏の最初の更新は1月5日で40.27秒。その後、1月6日に40.17秒、1月7日に40.15秒、1月8日に40.05秒、1月13日に40.02秒と少しずつ更新していった。
そして最終的には1月15日に39.98秒を叩き出し、見事40秒切りチャレンジに成功。マリオ64コミュニティの一部の人々の間で大盛り上がりとなった。
2月は花梨氏といこり氏による当スターのチャレンジが熱かった。その話を紹介する前に、二人が使用したルートについて少し話そう。
二人が使ったルートは、2020年7月にcircumark氏により考案された柱の順番を変更するルートだ。
このルートはRTA向けに考案されたが、元々このスター自体が難しかったこと・タイム短縮量的に変更するほどでもないことから当時は全走者が導入を見送った。
しかし時が経ち2023年2月。2023年3月開催のガチリレーに向けていこり氏が本格的に導入し、そこからごく一部の走者が120枚RTAでも導入するようになった。
これだけを聞くとRTA向けのルートのように聞こえるが、実はゲーム内タイム(処理落ちを含めないタイム)的には非常に速いルートだったため、当時のワンスター用ルートを越えてしまったのだ。
2024年に入って最初に更新したのは花梨氏。1月25日にゲーム内タイムで1:32.90という記録を叩き出した。
そこから2月に入り、花梨氏といこり氏が当スターに取り組み、2月8日に花梨氏が1:32.86、2月13日にいこり氏が1:32.73、その後花梨氏が再度更新するという結果に。
最後の花梨氏の記録は音無しだったため参考記録となったが、二人のチャレンジはなかなか熱いものだった。
当スターに関しては今後も更新合戦が見れるかもしれないので、期待しておこう。
2024年4月に、Krithalith氏により人間で実行可能なぶっこわのGWKルートが考案された。それを実現し、4月16日に更新したのがGiBoss氏だ。
GWKルートとはTASで使っているルートで、ぶっこわの壁の側面をGWKすることで無理やりスターを取るルートとなっている。
詳細は割愛するが、Krithalith氏考案のやり方は、最初の木からマクロのような入力を再現することで成功させるというものだ。
1個でも入力ミスがあると失敗してしまうのでRTA導入には至っていないが、それでも「人間でもGWKルートができるようになった」ということでコミュニティを騒がせた。
2024年6月に、Krithalith氏によりTASでも有用な看板抜けルートが実現されコミュニティが盛り上がった。
そして、ぶっこわスターの時と同じく、これを最初に実現し世界記録を塗り替えたのがGiBoss氏だ。
このルートは当ステージの左側にある看板に押し出されることで壁を抜けるルートだが、カーペットレスと同じレベルでシビアであるため、ステージ入場からマクロのような入力を再現することでしか成功させることができない。
そのため、まだRTA導入には至っていないが、看板抜けが無い時の最速記録14.74秒と比べ、なんと3秒も速い11.54秒が現世界記録となっている。
そのことから16枚RTAへの導入が期待されており、その先駆けとして、10月にPoke氏が看板抜けを2回連続で決めたことも巷で話題となった。
TASだけでなく通常のRTAでも大幅更新の可能性を見せたこの看板抜けは、2024年を象徴するひとつとして挙げるべきトピックだろう。
先で挙げたドッシースターの話がやや落ち着いてきた頃に話題の中心となったのは、ぱるすぃ~氏による当スターの20秒切りチャレンジだ。
当スターのワンスターでは、古来よりお馴染みの『ムシャーナ』という技が使われていた。
しかし2023年に入り、気が利くわら氏によりムシャーナを使わないSBLJルートが試され、氏は2024年2月12日に『20.52秒』を獲得。
当時の世界記録が20.33秒だったことから、「次の世界記録はSBLJルートだろう」とにわかに囁かれていたのだが…。
7月4日にぱるすぃ~氏がムシャーナルートで20秒切りを果たし、世界記録を塗り替えたのである。
初の20秒切りを果たした記録では、ムシャーナでぶっ飛んだ後にスターをヒップで直接取っている。これまではワンクッションあったので「直接取るのか!」と誰もが驚く結果となった。
2024年の夏は、ぱるすぃ~氏を中心にクッパステージでケツワープ(BLJ)を使うワンスターで盛り上がったのが印象的だ。
ここでは一番印象深かった『やみのせかいのクッパ 赤コインスター』の話をしようと思うが、それ以外のクッパステージも以下のように更新された。
スター名 | 最終更新日 | 現世界記録 |
---|---|---|
やみのせかいのクッパ コースのみ | 2024/09/07 | 20.95秒 by xandrey64氏 |
やみのせかいのクッパ 赤コイン | 2024/09/23 | 38.83秒 by ぱるすぃ~氏 |
ほのおのうみのクッパ コースのみ | 2024/09/02 | 30.59秒 by ぱるすぃ~氏 |
てんくうのたたかい コースのみ | 2024/08/22 | 33.83秒 by ぱるすぃ~氏 |
ここからはぱるすぃ~氏がチャレンジした『やみのせかいのクッパ 赤コインスター』の話をする。
そもそも当スターに取り組んだきっかけは『やみのせかいのクッパ コースのみ』のワンスターにあるだろう。
氏は2024年の夏、意欲的にワンスターにチャレンジしており、そのひとつとして『やみのせかいのクッパ コースのみ』のケツワープルートに取り組んでいた。
そして無事にケツワープルートを決めて世界記録を獲得したわけだが(現在はxandrey64氏に抜かれている)、赤コインスターでもケツワープの要領は同じなのでチャレンジすることになったようだ。
振り返ると、当時の赤コインスターの世界記録は、2020年9月にMikko氏が叩き出した41.74秒。
上記記録以前はRTAでも使われる『月島サイクル』を最適化したものが世界記録だったが、Mikko氏の記録では回転足場でのケツワープを決めることでもう1周期速いサイクル(Mikkoサイクル)に乗っている。
そして、主に1周期速い点を理由として更新に至ったわけだが、実は赤コイン6枚目以降のパートがあまり最適化されていないという更新余地を残していたのだ。
つまり、Mikkoサイクルを決めたうえでその後の動きも最適化すれば世界記録を獲得可能であり、最上位勢であれば狙えそうだと考えられていた。
しかし実際はそう簡単には更新されず、ぱるすぃ~氏が更新するまでの4年間はMikko氏の記録が最速として君臨していたのである。
では、なぜ更新されなかったのか――。その理由は、いうまでもなく回転足場でのケツワープの異常な難易度のせいだろう。
ぱるすぃ~氏も苦戦していた点だが、赤コインスターにおけるケツワープは連打が早ければ良いというものではない。
クリスタル地帯にある赤コインを取りながら孤島に着地する必要があり、そのためにはケツワープの速度調整やシビアな入力が必要不可欠なのだ。
そもそも回転足場でケツワープする点が難しい上、調整も必要、という超高難易度から4年間達成者がいなかったのだろう。
こんな超高難易度ルートをぱるすぃ~氏は何度か決め、最終的に39秒切りを果たした。
このチャレンジを取り上げた理由は、氏は当スターを配信上でチャレンジしていたのだが、リアルタイムで苦戦していた様子が強く印象が残ったからである。
例えば、ケツワープが決まったのにも関わらずその後で失敗してしまった悔しいテイクを見れたりと、配信ならではの面白さがあった。
その上、他のクッパステージと比べて明らかに苦戦していたことからも、コミュニティの視聴者的には印象に残るワンスターチャレンジだったといえる。
ちなみに、『てんくうのたたかい コースのみ』では、これまでTAS技とされていた『回転リフトでのケツワープから土管イン』が人間でも実現され、コミュニティを大いに賑わせた。
このあたりは、今後クッパステージを振り返る機会などあれば紹介するとしよう。
先で挙げたクッパステージ以外はというと、以下のようなワンスターたちが話題となった。
(ここまでで色々紹介し力尽きたので)詳細は割愛するが、是非一度見てみてほしいと思う。
★ あっちっちさばく てっぺんスター(達成日 8/16)
楔氏による記録でタイムは6.03秒。2023年3月に考案された新ルートを初めて導入した記録となる(現在当記録は抜かれている)。
★ ファイアバブルランド 丸太スター(達成日 9/10)
楔氏による記録でタイムは7.64秒。過去の記録と比べケツワープ周りが最適化されている点が印象的。
★ チックタックロック ぐるかごスター(達成日 9/29)
Gemini氏による記録でタイムは7.50秒。GWKルートで四度も世界記録を更新するという背景も含めて注目が集まる。
★ チックタックロック 針先スター(達成日 10/22)
GiBoss氏による記録でタイムは5.43秒。今までは最後ダイブ復帰してスターを取っていたが直取りを成功させている点が話題に。
★ やみにとけるどうくつ 非常口スター(達成日 11/19)
楔氏による記録でタイムは10.41秒。2024年に話題になったQJK二段ダイブの新アプローチとSlideYawの仕込みを組み合わせて更新した点がオタクポイント。
★ みずびたシティー エレベータスター(達成日 12/21)
GiBoss氏による記録でタイムは7.57秒。8秒切り達成とその完成度の高さから年末に注目を集めた。
11月から年末の間は楔氏とGiBoss氏による当スターのチャレンジが熱かった。
チャレンジ以前の世界記録はGiBoss氏が2022年6月に達成した30.08秒。
この記録を2024年11月3日に破ったのが楔氏だ。その時の記録は30.01秒で、30秒切りまであと一歩のところまで来ている。
この記録を皮切りに、楔氏とGiBoss氏による世界記録塗り替え合戦が勃発。
まずはGiBoss氏が11月5日にタイ記録である30.01秒を獲得。その後2日で29.91秒まで伸ばし世界初の30秒切りを達成した。
しかしここで終わることなく、1ヵ月後の12月9日に楔氏が29.81秒、12月25日にGiBoss氏が29.74秒、同日に楔氏が29.72秒、そして最後12月31日にGiBoss氏が29.71秒を出すに至った。
下記動画は楔氏の29.72秒だが、上記の30.01秒と比べ、泳ぎの最適化レベルが明らかに上がっていることが分かるだろう。
特に注目するべきは『最初の壁抜けまでのライン取り』と『潜水艦の先頭に飛び移る前の泳ぎのライン取り』。
前者に関しては、壁抜けまでのライン取りが変わっており明らかに速くなっている。後者に関しては、強引にUターンした後に水中からジャンプする形となっており速くなっていることが分かる。
この2つのパートを見るだけでも当スターの奥深さがなんとなく伝わってくるのではないだろうか。
【ルート開拓面】Krithalith氏のscattershotが大活躍
2023年9月にRTA用のカーペットレスが考案されたことは多くの方がご存じだろう。
そこで使われたのはscattershotというツールで、ざっくりいうとコンピュータが条件に基づいてルートを調査してくれるプログラムだと思ってくれれば良い。
マリオ64RTAとしては2023年から火を噴き始めたKrithalith氏のscattershotだが、2024年もその勢いのまま大活躍。
それにより、マリオ64RTA・TAS共に大幅な開拓が見られたのが2024年である。
当セクションでは、Krithalith氏により考案されたもののうち、【ワンスター面】で紹介していないものを4つ取り上げよう。
年初早々にコミュニティの人々を驚かせたのは120枚RTA向けに考案された『おほり先チャート』だろう。
前提を話すと、城外にある『おほりのとうめいスイッチ』は本来地下の水を抜いてから入場するステージなのだが、ケツワープ(BLJ)で無理やり入場することが可能だ。
そして、オープニング後すぐにケツワープで当ステージに入ることで城内移動を減らすことができるため、実現できれば大幅なタイム短縮になる。
具体的な短縮量は、circumark氏の参考動画によると理論上26.4秒。
ただ、ケツワープで入る方法は難易度が非常に高く、人間でできるのかどうかも分かっていなかったため、開拓者の中では保留となっていた課題だった。
それをscattershotを用いて人間でも実行可能なものを見つけたのが当トピックとなる。
当トピックに限らない話だが、scattershotで見つかった入力は基本的には全くその通りに入力する必要があり、それが人間でもできるかどうかでRTA導入の可否が決まる。
今回の考案はKrithalith氏自身でチャレンジし見事成功させるに至ったが、明らかに難しい上に判断を早くしないと短縮に繋がらないことからRTAでは導入されずに現在まで来ている。
次に取り上げるのは8月29日に投稿された滝滑り慣性ルートだ。実際のルートは下記動画の4分42秒からを確認してみてほしい。
RTAでは、ステージ入場後に正面で壁抜けし水中を経由して上の足場に移動する。
実はその水中に着水することなく滝を滑ることができるため、それを利用して慣性をつけて丸太を最速壁キックし勢いのまま上に登っていくのがこのルートとなる。
このルートはワンスター向けだったため、考案後、ワンスターに興味のある走者や開拓者によって試された。
しかし、滝を滑るに至るまでが人間だと不可能だという結果となり、現状は誰も実現できないまま放置されている。
ただ、見た目的には人間でも可能な範疇だと考えられるので、滝滑りまでの簡単な入力などが見つかればワンスターで実用化されるかもしれない。
次に取り上げるのは9月15日に投稿された新慣性羽ルートだ。実際にRTAで使えそうだといわれたものは大きく2種類あり、circumark氏によりそれぞれの参考動画が投稿されている。
■ RTA案1(画面左)
■ RTA案2(画面左)
これらルートのメリットは、現在の慣性羽ルートと比べ安定して速いタイムを出せるポテンシャルを秘めている点である。
しかし、RTA案1は慣性羽に至るまでが明らかに難しく没に。RTA案2は、慣性羽に至る手前のピラミッドを滑る部分が微妙に難易度が高く、左横の側面を滑ってしまったり・そもそも滑るのに失敗してしまったりと、RTAで使えるレベルには至らなかった。
最終的な結論としては、ピラミッドを滑るまでのパートにて人間でも入力しやすい方法が見つかればRTA導入の可能性有り、ワンスターとしては明らかに速いタイムを出せるので現状でもやる価値有り、という結果となっている。
ちなみに下記がワンスター向けに投稿された動画であり、現行ルートと比べ5.8秒ほど速いタイムが出ている。
最後に取り上げるのは10月11日に投稿されたウォーターランド100枚赤コインのルートだ。
『あっちっちさばく 赤コインスター』の時と同じくKrithalith氏の動画では様々なルートが紹介されているが、circumark氏によりそれらが調査された結果、下記動画のルートがRTAで実行可能な落としどころとして誕生した。
このルートを用いるとリアルタイムで3.5秒ほど速くなるとされている。
滑りジャンプが多分猶予1fと最速壁キックが必要だけどRT3.5秒ぐらい速くなる
赤コイン取る順番を色々試してみたけど滑りへの移行のしやすさと速度の付けやすさ的にこれが一番良いと思う
赤7枚目後に滑り台で青スイッチ行くほうもいくつか試したけど直掴みできない場合ならTJダイブのほうが速そうだった pic.twitter.com/FEmqdHnml5— 宇佐美まさむね (@circumark994) October 15, 2024
難しい点は『潜水艦の先頭での滑りジャンプの猶予が基本1フレーム』『最速壁キック(猶予1f)は必須』の2点。
ただし、見た目よりは難しくないため、この時は「少なくともワンステージRTAでは使えるだろう」という結論に至った。
しかし数日後、circumark氏により、RTA向けにチャンスがありそうなルートが公開される。
この動画は氏が以前考案したルートの再調査版であり、うまくいった場合(画面左)は2.7秒の短縮・失敗した場合でも1.2秒のロスで抑えることができる。
唯一の課題は『赤金網カゴを蹴った後に赤金網にぶつからないようできるかどうか』。仮にその課題をクリアできるならばRTA向けとして使えるのではないだろうか、というところまで来ている。
【ルート実用面】即採用レベルの案がいくつかあった
当セクションでは、実際にRTAに採用できるレベルの案のうち、2024年で話題になったものを5つ紹介する。
その他、詳細は割愛するが紹介しておきたい案も書き記しておこう。
RTAにすぐに採用されるようになったものとして、2023年12月31日にTabascoth氏により投稿されたムシャーナの改良版『垂直ムシャーナ』がある。
実際の動きは下記動画の2分29秒あたりから見てほしいが、言葉の通り垂直視点のままムシャーナを行い、木扉部分を抜けるというものだ。
主なメリットとしては、通常ムシャーナと比べセットアップ完了までが多少速く、ケツでぶっ飛んだ後に壁でAir BLJ(何度もケツワープする行為)せずに行けるため安定して速いタイムを出せる点だろう。
アイデア自体はTabascoth氏により数年前に投稿された記憶だが(多分)、今回の投稿をきっかけに120枚RTAで普及し、現在の世界記録(1:35:28)などでも使われている状況だ。
2023年9月に考案されたカーペットレスだが、2024年の1年間でセットアップ部分がかなり最適化された。
最終系の参考動画は以下の通りで、『カメラの回転を待たずに三段ジャンプへ移行している点』『通しでもポーズ2回だけを狙う点』『屋根滑りアプローチを導入している点』がポイントだ。
ここまでの最適化がなされた理由だが、考案時は『カーペットレスを成功させること』に重きが置かれていたのが、成功させることが当たり前になってからは『タイムを速くすること』に重きが置かれるようになったためだと考えられる。
つまりは、この1年で各走者のカーペットレスに対する練度が上がったということだろう。
この最適化は地味に聞こえるかもしれないが、2024年を表す良いトピックなのでここで取り上げた。
2024年に注目が集まったトピックを語るならばこのルートは欠かせないだろう。
10月26日。音奈ひな氏により、青コインの乱数をほぼ無視できるルートが考案された。
下記ツイートの動画がそのルート案で、現行のコイン11枚ルートを拡張してコイン16枚ルート化したようなものとなっている。
青コインの乱数にほぼ左右されないthi100枚16cルート案 pic.twitter.com/x5ip5o3ok0
— 音奈 ひな🥚Autonachick (@AutoNaChick) October 26, 2024
前提として、ここのちびノコの青コインは乱数に依存しており、青コインが遠い位置に出現するとそこまで取りに行くのに時間がかかる上、アドリブプレイになるためミスしやすくなる。
そのため、通しレベルでの現行ルートは、それなりの乱数で13.1秒で土管イン・乱数が悪いと13秒後半で土管インというタイムのばらつきがあった。
それと比べこのルート案は、13秒前半安定を目指すことができ、且つ、動きが簡単なのがメリットとなっている。
考案された後、ぱるすぃ~氏が10連続で13秒台インを決めるなど、特に日本コミュニティで大きな話題となった。
その後さらに最適化され、現在は人間だと12.93秒(下記動画)、理想値だと12.66秒まで出せることが判明した。
そのことから現在は主流ルートのひとつとして扱われるところにまで来ている状況だ。
ちなみに余談だが、このルートはSuigi氏が人類初の1:36切りを果たす数時間前に考案されたこともあって、考案日の日本のマリオ64コミュニティではこのルートの話題とSuigi氏の話題が飛び交っていたことを今でも覚えている。
当スターには池のコインを先に回収する『池先ルート』が存在するが、9月18日にKANNO氏によってそのルートの改良アプローチが考案された。
下記ツイートの動画の53秒からを見てみると分かるが、大ジャンプでそのまま[!]箱に向かっている。これが今回考案された大ジャンプアプローチとなる。
13530 xcam
134 viable
133 possible by 120star top players pic.twitter.com/BuSkcv2Z5N— KANNO (@AnymanKanno) September 18, 2024
池先ルート使用者が少ないこともあり、このアプローチはそこまで注目が集まらなかったが、実は即採用レベルの良案だといえるだろう。
というのも、現在主流の池後ルートは池先ルートと同じぐらいのタイムなのだが(参考動画)、大ジャンプアプローチを導入すればほぼ確実に池先ルートのほうが速くなると考えられるからである。
証拠として、かんの氏の参考動画のタイムは『1:35.30』だが、Ultimateシートにおける池後ルートの最速記録(動画有り)は、数多の走者により詰められたのにも関わらず『1:36.53』。
練度の差や試行回数を考えても、かんの氏のルートのほうが速いタイムを出せるポテンシャルを秘めていると推測できる。
ちなみに、KANNO氏曰く難易度も比較的低く、下記動画で紹介されている入力の通りにやれば安定する模様。
このアプローチにより、池先ルートが主流になる日も近いのかもしれない。
12月5日。Weegee氏により、短距離カテゴリ向けとして当ステージのBLJセットアップが考案された。
氏曰く、BLJを使わない場合と比べ、2秒程度速くなるとのこと。
やり方などはここでは割愛するが、0枚RTA・1枚RTA・16枚RTAが突き詰められた結果、このようなセットアップを議論しなければならなくなったのが2024年のマリオ64らしいと感じる部分だろう。
ちなみにWeegee氏は現在、これとは別のセットアップを用いて短距離カテゴリに挑んでいるようだ。
2025年にBLJルートが標準化されるのかどうかに注目したい。
最後に上記5つ以外で紹介したい案などを書き記す(順不同)。
★ たかいたかいマウンテン 100赤 滝側壁キックアプローチ
上記動画の画面上のアプローチのこと。
案自体は2019年2月頃のものだが、2024年頃に最上位勢を中心に主流化されたため取り上げた。
★ スノーマンズランド 100赤 ガマグチルート
2023年11月にKrithalith氏により考案され、そこから2024年にかけてぱるすぃ~氏らにより開拓が進んだ。
現在はワンスターやワンステージRTAで採用されている。
特に注目したいのは当ルートを導入したワンステージRTA。通常ルートと比べ20秒ほど速いタイムが出ていることや、RTAで実行可能なレベルのルートであることからも「120枚RTAの必殺技として使えるのではないか」という段階にまで来ている。
★ チックタックロック トコトコMoving Reds
トコトコMoving Reds×3 pic.twitter.com/UtwXaRHlbD
— そりち (@sorichi523) June 24, 2024
2024年6月にそりち氏により考案され、最初トコトコしていることからトコトコMoving Redsと呼ばれている。
考案後、主に日本の走者たちにより試され、良い感触だったことからチュートリアル動画が作られるまでに至った。
★ ほのおのうみのクッパ PUルート
Got Fire Sea PU Full Stage
32.93/34.80 https://t.co/77sfwdrWCt pic.twitter.com/t31WMFsoew— Poke (@Poke711_) January 19, 2024
2023年12月にKrithalith氏により考案され、2024年1月頃にチャレンジする走者が出現。
その一人がPoke氏であり、世界記録ではないもののフルで成功させるに至っている。
また、キーボード入力であるもののゲーム内タイムで29.70秒を出した走者もいて、大いに盛り上がった。
今後ワンスターがPUルートで更新されるかどうかに期待したい。
★ レインボークルーズ 100枚 ヘイホーコインの案
flyguy idea? pic.twitter.com/9IzkjZ5x78
— KANNO (@AnymanKanno) September 28, 2024
9月28日にKANNO氏により考案されたもので、足場の内側からジャンプキックでヘイホーを倒しパンチ加速してからコインに向かうことで、高確率でコインを取れるようにするもの。
過去の案として、足場の内側で待機しこちらに来たヘイホーをジャンプヒップで倒すことでコインを確実に回収する案があったが、それの改良版だとされる。
細かい部分ではあるが、一部走者は導入している状況なのでここで取り上げた。
★ DDD Skip 新セットアップ
12月31日に2024年の滑り込みとして上記が考案された。
★ チックタックロック 高速スピード入場 バク宙セットアップ
上記動画の1時間25分56秒から。ふりこの右下の角と床の模様を目印にバク宙返りすることで、仕掛け高速スピードに入り直すセットアップが誕生した。
Failman氏により考案されたもので、目印は以下の画像の通り。
★ ファイアバブルランド 100枚 2匹目アイクン先ルート
上記動画の26秒から。
2019年12月にcircumark氏により考案された案をsaksdal氏がアレンジしたもの。
ドンケツ隊足場の8枚円が取りやすくなる&アイクンの青コイン回収時の速度を高い状態にできる点(≒多少速くなる点)がメリットだ。
★ バッタンキングのとりで 新ぶっこわセットアップ
運要素を排除できるぶっこわ
・1回目の崖掴まりは、左手が白線より右ならOK(多分動画でギリ)。この際マリオ視点遠目にしとく。
・真右に歩いて崖掴まり。
・ジュゲム視点にして、c左、c右を押す。
・Aでよじ登ったらここからスティックはずっと真上。
・歩き出し最速で幅跳びして最後2f壁キック。 pic.twitter.com/Nc6lklX5k0— 金兵衛 (@humphearts) August 7, 2024
8月8日に金兵衛氏により考案されたセットアップ。最終的に11秒台を出せるレベルにまで進化し、通常の崖掴まりセットアップよりも良い可能性が出てきている。
★ かいぞくのいりえ フレームウォークスキップ
— 音奈 ひな🥚Autonachick (@AutoNaChick) December 19, 2024
12月19日に音奈ひな氏により考案されたもの。
2019年2月頃にKyman氏により考案された柱で反転する技と2021年5月にcircumark氏とGoldrush氏により考案された柱に触れて角度を変える技を組み合わせたようなものとなっている。
Vadien氏により12.70秒まで出せることが確認できているが、通しで使えるものではないようだ。
12.70 pic.twitter.com/h5uSMjABXh
— Vadien (@Vad1en) December 22, 2024
【イベント面】恒例の目隠しRTAとSuigi氏のオフライン大会
2024年はイベント面でそこまで盛り上がったとはいえないかもしれない。しかしながら、3つほど取り上げたいものがある。
ここまでの間で何度か出てきたが、日本コミュニティが記録狙いイベントとして開催したのが『Japan Summer Cup 2024』だ。
7月1日から8月31日の間で開催された当イベントは今回も盛況で37名の参加があった。
ここで取り上げたのは、今回はGoldrush氏が日本人3人目の70枚RTA47分切りを達成したり、普段は見られない100残機RTA・オールコインRTA・S人生などのカテゴリが見られたりと、思い返すと満足感のあるイベントだったからである。
ここ1、2年は日本のマリオ64走者も増えてきているため、こういったイベントが各走者のモチベーションになっていることだろう。
2021年冬ぶりにRTA in Japanに目隠しマリオ64が採用され、前回からの期待を裏切ることなく非常に盛り上がった。
走者はお馴染みのBubzia氏。氏は2021年以降も様々な目隠しカテゴリを走っており、練度や経験を高めていた。それらの一端を披露する場として、今回は目隠し1枚RTAを披露するに至った。
どのような走りだったかは下記からアーカイブを見てほしいが、Twitchのデータ集積サイトによると、同イベント内で最も視聴者を集めたようで最高で8.4万人ほどの視聴者がリアルタイム視聴していたようだ。
それだけ盛り上がった走りだったといえるだろう。
11月8~10日の間でGSA主催のオフラインイベント『PACE Fall 2024』があり、そこでは120枚RTAトーナメントが行われた。
今回参加した走者の中で期待されていたのはSuigi氏だ。
「11月3日に自身の世界記録を塗り替えたばかりの氏がオフライン大会でどのような記録を出すのか」
多くの視聴者が見守る中、氏はその注目を裏切ることなく世界記録ペースでラストクッパに。
惜しくもクッパ投げを外してしまったが、オフラインの場で『1:35:41』という大記録を出すに至った。
この結果もあって、当イベントはSuigi氏が世界王者になったことを強く実感できるイベントだったと思っている。
GREENSUIGI HAS:
GOTTEN THE FIRST LIVE 1:35:XX ✅
HAS NEVER SEEN A 1:36:XX ✅
TAKEN FIRST PLACE ✅
DONE IT AGAIN ✅WILL WE SEE THIS MAN SNIPE THE RECORD THIS WEEKEND ⁉️ pic.twitter.com/IpQLKwFFjR
— GSA 🎮 Speedrun Events (@GlobalSpeedrun) November 8, 2024
【その他】Suigi氏の全冠と見えない壁の解説動画
最後に、ここまでに挙げたどのセクションにも当てはまらないトピックを紹介する。
冒頭で述べた通り、2024年に最も熱かったトピックはSuigi氏の全冠だ。
マリオ64のメインカテゴリは120枚RTA・70枚RTA・16枚RTA・1枚RTA・0枚RTAの5つあるが、実は過去、同時期に全メインカテゴリの世界記録を保持した走者はいなかった。
11月17日に70枚RTAの世界記録を更新したSuigi氏は、晴れて世界初のメインカテゴリ全冠達成者となったのである。
あまりにもインパクトの強いトピックだったため、マリオ64コミュニティだけでなくRTAコミュニティ全体でも「Suigi氏はマリオ64星人である」と大きな話題を呼んだのは皆も色濃く覚えていることだろう。
次点で話題になったのは、これも冒頭で述べたが、pannen氏が4月14日に投稿した見えない壁の解説動画だろう。
RTA走者としてもマリオ64愛好家としても知って得する面白い動画だったことから、マリオ64コミュニティに留まらず世界中で話題になった。
まだ視聴していない方は是非見てみてほしい。
以上が記事冒頭で話したトピックであり、その他に話題になったトピックを3つほど簡単に紹介して当記事を終わることにする。
こちらもpannen氏によるものだが、5月12日、氏はさむいさむいマウンテンの小屋の扉を開ける動画を公開。
この動画はマリオ64コミュニティ以外にも伝わり、ついには「28年越しに扉が開いた」ということでネット記事で紹介される事態にまで発展した。
ネット記事: 『スーパーマリオ64』の”一方通行の開かずの扉”、ついに開け方が発見される。カギになったのはアクション動作の「コード順」か – AUTOMATON
こちらも2024年を代表するトピックだったといえるが、タイム的には遅かったため、RTAやTASで採用されなかったのが残念だ。
こちらもネット記事になったトピックだが、5月にMarbler氏がAボタンを使わずに86時間かけてマリオ64をクリアしたことで話題となった。
ポイントはWii VC版を使っている点だ。Will VCは浮動小数点数の計算が実機と異なるため、ほのおのうみのクッパの足場が少しずつ浮かび始めるのだ。
これにより、ほのおのうみのクッパをAボタンを使わずに攻略でき、人間の手で行うRTAでもAボタン無しでゲームクリアできたのである。
ネット記事: 『スーパーマリオ64』のAボタン禁止RTA、「86時間」かけてついに達成。ジャンプなしでクリアする方法は“約3日間待機” – AUTOMATON
この他、ネット記事などではあまり語られていない点だが、てんくうのたたかいなどをAボタン無しでクリアしている点にも注目したい。
マリオ64RTAには、Aボタンを使わずにスターを回収する『RTABC』という競技があり、この競技の愛好家たちが日夜Aボタンを使わない人間用の戦略を議論している。
その議論から誕生した戦略たちの結晶がこのMarbler氏の走りに繋がっていることからも、RTABCコミュニティが一丸となって達成したのが当記録だといえるだろう。
実はRTABCも結構面白い話があったりするので、機会があれば紹介しようと思う。
最後3つ目は、8月24日にOmedas氏により投稿された『ケツワープの理論的な解説』だ。
当サイトでもケツワープの超上級者向け解説を載せているが、これを理論的に紐解いて解説したようなものとなっている。
また、階段を90度の垂直で使うのではなく少し斜めに使う場合に関しても言及しており、マリオ64RTAコミュニティの関心を集めた。
ネット記事にはならなかったものの、記事として取り上げられてもおかしくないほどの動画だったと感じている。
むすび
走り書きにはなったが、今回は2024年に起こったトピックを各側面ごとにまとめた。
取り上げ切れていないトピックも多々あるため、それらはまたどこかで機会があれば紹介しよう。
覚書のつもりで書いたが、楽しんでいただけたのであれば幸いだ。
最後に、このまとめを作成するにあたり配信中にトピックを募ったのだが、その際に視聴者の皆が多くのトピックを提供してくれた。この場にて御礼申し上げる。